エドワード・ヤン監督
@ Elinor Burin Munroe Film Center (Film Society of Lincoln Center)
11月25日〜12月1日まで 2:00pm & 7:00pm
『牯嶺街少年殺人事件』は1991年に制作された作品で、映画ファンの間では名作として知られていおり、長い間観たいと思っていた作品の一つだったが、なかなか観る機会がなかった。それが、2009年にマーティン・スコセッシ創設の組織、World Cinema Foundationからの資金を受けて修復され、新しい35mmフィルム・プリントが作られたらしい。この作品がアメリカで劇場公開されたことはなかったらしく、今回がアメリカでの初上映となる。
傑作と言われる一方で、なかなか観る機会がない理由の一つは単にその長さのせいかもしれない。4時間近くあるのだ。映画好きとはいえ、4時間ある映画を観るにはそれなりの覚悟がいる(ちなみにどうやら、劇場公開版の3時間ぐらいのものもあるようだが、私が今回観たのはディレクターズ・カットの4時間版のものである)。しかし、実際に観てみると、その4時間という長さが全く長いと感じることはなかった。確かに、物語はかなり淡々と静かに展開していくのだが、描かれているものが濃く、むしろ4時間でよく収まったと思えるぐらいである。
この映画は、1960年代に実際に台湾で起こった中学生男子による同級生女子殺傷事件を題材としている。第二次大戦後、多くの中国人が中国本土から台湾へと渡った。主人公スーの家族も上海から台湾へと移住してきた中国人であった。日本統治下に建てられた日本式家屋で生活をし、屋根裏を探せば日本兵が置いていった刀が出てきたりする。一方で、街中を戦車が走り、すぐ近くの演習場では連日うるさく銃砲が響く。国民党政府や秘密警察の監視の眼も厳しく光っている。そうした歴史・社会変動が日常生活にも深く刻み込まれている。政治的にも社会的にも不安定な状態が続く中、人々はなんとか自分たちの居場所を見つけ出そうと、不安を抱えながら手探り状態で生きていた。そうした大人たちの不安定な状態を映し出す鏡のように、子供たちは不良グループを作り、激しい縄張り争いを続けている。
主人公スーは、不運にも夜間学校へ入学することになり、不良グループたちとつるむようになっていた。そんな中で、スーはミンという一人の少女に恋をする。しかし、そのミンは不良グループのボスの彼女であり、スーはなかなか一歩を踏み出せないでいる。やっとミンと心が通じ合ったと思ったところで、スーは学校から退学処分を受けてしまう。普通学校へ編入すると決心したスーは、試験が終わるまでミンに会わずに勉強に励んでいたが、その間にミンが友人のマーと付き合いだしたという噂を耳にしてしまう。まっすぐなスーはその理不尽な思いを上手く吐き出すことができず、ふとしたことからミンを刺してしまう。
物語は、スーの恋模様や友人関係を軸に、スーの家族、そして不良グループの抗争などの話も織り交ぜながら進んでいく。原題にあるように「殺人事件」は登場するが、それは物語の中心では決してなく、あくまでも物語が辿り着く結果でしかない。むしろ映画の焦点は、台湾に生きる人々の姿であろう。そして、台湾の不安定な社会情勢と青春時代の多感で危うい少年の心の機微を見事に描ききっている。戦後台湾社会という特定な題材を巧みに描写すると同時に、一人の少年の姿を通して、物語を人生のもどかしさや不条理さという普遍的なテーマへと昇華させている。
主人公のスーを演じているのは、今では台湾のスター俳優であるチャン・チェン(『ブエノスアイレス』や『百年恋歌』にも出演)。本作がデビュー作なのだが、さすが、たたずんでいるだけで絵になる。シャイだけども真っすぐで不器用な少年を見事に演じている。撮影時まだ15歳ぐらいのはずなのだが、ただ黙っていても、その印象的な眼差しが多くを物語る。主演がチャン・チェンじゃなければ、この映画は成立しなかっただろう。ちなみに本作の父親役を演じているチャン・クォチューはチャン・チェンの実の父親。撮影にチャン・チェンを連れてきた時に、監督が起用を決めたらしい。兄役のチャン・ハンも実の兄のはず。
| この夏にオープンしたElinor Burin Munroe Film Center |

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