Nemesis
フィリップ・ロス著
去年、出版されたフィリップ・ロスの新作『Nemesis』(ネメシス)がペーパー・バックでも出たのでさっそく読んでみた。
物語自体はかなり地味なのだが、それが逆に彼の文章力の上手さを際立たせている。シンプルでありながら、読み応えがあり、そして最終的には、人間存在の小ささと神の存在について問いかける哲学的な作品に仕上げている。
第二次大戦中の1944年にニュージャージの小さな町でポリオが大流行する。当時はワクチンがまだ開発されておらず、瞬く間に次から次へと、子供たちを中心に被害が広がっていく。主人公バッキーは、兵役に就くことを志願していたものの、視力があまりにも悪いため、徴兵試験に落ち、戦争に行くことなく、児童公園の監督係として働いていた。責任感の強いバッキーは子供たちを病魔から守れない自らの無力さに悩む。パニックに陥った親たちから批判を受けたバッキーは、町を離れ、恋人のいる田舎のサマーキャンプへと向かう。カオスのような状況から抜け出し、楽園のような空間を楽しんでいたものつかの間、サマーキャンプにもポリオの魔の手が及ぶ。
真夏の暑い中、ポリオが徐々に拡大していき、町が少しずつ混乱に陥っていく様子、そして主人公の葛藤を、緊張感を持って描写されていて、何気ないところにもドラマがあり、どんどん物語に引き込まれていく。
物語は、数十年後、バッキーと再会を果たした、児童公園で遊んでいた子供の一人であったアーノルドの視点から書かれている。実は、その後バッキーもポリオを発病し、死には至らなかったものの、障害が残ってしまい、恋人も夢も全て諦めるはめになり、当時とは全く別人のようになっていた。しかし、運動神経抜群であったバッキーは子供の間ではまるで英雄であり、アーノルドの中ではその当時の彼の輝かしい姿が心に刻まれ、決して消えることはなかった。
ちなみに、タイトルの「ネメシス」とはギリシャ神話に登場する女神で、神の憤りと罰を表しているようだ。また、全く歯が立たない敵・ものごとという意味もある。

1 comment:
Merry X'mas!
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